綺麗と嘘
LRに入っている写真を整理していた。
いろんな写真が出てくる。
中にはドキッとするような写真、えっとなるような写真、懐かしくなるような写真もある。
でも、目に留まるのは綺麗な写真。
綺麗なものを見ると、嘘をつけなくなる。
自分に。
気にしないように自分に嘘をついているけれど、
嘘をつけなくなる。
逆さまにしていることが、暴露る。
弱い。
百姓と種まき
百姓
僕を自然好きにしたのは、叔父である。
畑での遊び方、カエルの取り方、気をつけないといけない場所、蛇の見分け方、ワタリガニの取り方、カブトムシの取り方、魚の釣り方、網の作り方、正月用の箸の作り方、かたかた。
手がでかくて、ゴツゴツしていて、強く、空手をしていて、
ジャッキーチェンに似ていて、酒好きで、コミュニケーションが下手くそで、
苦手だったけど、大好きだった。
そんな大好きだった叔父が、酔っ払いながら教えてくれたこと。
「おいしゃんは、百姓やろうが。百姓って漢字はならったか?百の女が生まれるって書こうが、何事も女がおらな生まれんかろうが。やけん百姓っていうのはな、たくさんのものを生んでいく仕事なんぞ」
たぶん由来とか語源を調べれば、「間違い」なのかもしれないけれど、
僕はこれは正しいと思っている。
そして、今日は1日種をまいていた。気が付いたら夕方だった。
野良仕事のなかで、種まきが一番好きだ。
準備に一番手がかかり、種をまくのに膨大な集中力を使うからだ。
たぶんもっともエネルギーを要する作業だと思う。
野菜の出来は、種まきが終わった時点で、7割がた決まっている。
8割がたかも。
種をまきながらいろんなことに想いをはせる。
どこかの家庭で、あるいはどこかのレストランで、
料理が20分で出来た。
それは嘘だ。
じゃがいもひとつとっても4ヶ月、玉ねぎは8ヶ月、人参だって5ヶ月
ラディッシュだって1ヶ月かかる。
そして、そのひとつひとつには人の手と大地の力が添えられていて、
こうやって4ヶ月なり、8ヶ月で、野菜を作れるようになるために、
時間だったり知恵だったり、たくさんの蓄積が必要だ。
僕がまいたこの種が育って誰かの口に入る時、
その人はそれに想いを馳せてくれるだろうか。
それはわからない。
だから、まずは僕たちが想おう。
今日まいたこの種が、
大切なあの人の体を作り人生を作るのだと。
そして、たくさんのものを、生んでいくのだと。
P.S.
肥料が風に舞い、目にたくさん入った。
これで目が肥えたと思う。
※解説:野良ジョークの一つ。
肥料を畑にまくと、畑が肥えるが、目に入ったので、目が肥えたの意。
渾身のジョークである。